研究課題

■ 新しい電子相の開拓とその制御による機能性材料の開発

■ 遷移金属を基調とする合金・化合物の磁性とその応用

■ 新規アクチュエータ材料の開発

■ 負熱膨張材料ならびに熱膨張制御技術の開発

■ ハイエントロピー化合物における電子物性開拓と機能性材料開発

化学反応では、エンタルピーとエントロピーという2つの要素から成るギブス自由エネルギーが、より低くなる方向に反応が進みます。従来の物質合成では、化学結合の形成によって得られるエンタルピーの利得に注目してきました。しかし近年、5種類以上の元素を含み、エントロピー項で物質を安定化させる「ハイエントロピー化合物」が登場し、物質合成に大きな革新をもたらしています。私たちは、このエントロピー安定化効果を利用して新しい超伝導体の合成に成功しました。さらに、多元素を混合することで、超伝導転移温度や磁場耐性などの特性が向上することを見出しました。ハイエントロピーによる安定化は、物質合成の幅を広げるだけでなく、複数元素の組み合わせにより新たな機能を引き出す可能性を秘めています。今後、ハイエントロピー化は機能性材料開発の有力な手法となることが期待されます。

 
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図:ハイエントロピー化合物の概念図。複数種類の元素を混合することで相が安定化し、新たな機能が発現する。

■ スピン軌道結合を活かした機能性物質の創成

電子はスピン角運動量と軌道角運動量という二つの自由度を持ち、これらは相対論的効果であるスピン軌道結合によって結びついています。一般に、遷移金属のd 電子では、軌道が周囲のイオンからの結晶場の影響を強く受けるため、軌道角運動量は多くの場合実効的に抑制され、スピン軌道結合の効果は物性に対して小さいと考えられてきました。 しかし近年、タングステンや白金などの原子番号の大きな重遷移金属元素においては、スピン軌道結合が電子状態に大きな影響を及ぼし、スピンと軌道が強く結合した新しい量子状態が実現することが明らかになってきました。その結果、通常の磁気秩序とは異なる、電荷とスピンの自由度が複雑に絡み合った「多極子秩序」と呼ばれる新奇な電子秩序が現れることが示されています。 私たちは、Ba2MgReO6という化合物において、遷移金属酸化物における多極子秩序を先駆的に実験観測するとともに、その理解を深めてきました。現在は、こうした知見を基に、さらなる新しい多極子秩序の発見を目指した物質開発を進めています。また、スピンと軌道が結びついた電子の自由度を活用することで、新たな機能を有する材料の創出にも挑戦しています。

 
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図:独自の合成技術により育成した Ba2MgReO6 や Cd2Re2O7 の単結晶を用い、スピンと軌道の結合に由来して現れる多極子秩序と呼ばれる新しい電子秩序の理解を目指しています。

■ 酸化物におけるディラック電子と高伝導性の物理

物質中では、電子は周囲のイオンがつくるポテンシャルの影響を受けながら運動し、その結果として運動量とエネルギーの関係が定まり、電子バンドを形成します。通常の物質では、電子のエネルギー分散は放物線状になりますが、近年、結晶構造の特徴や対称性に起因して、運動量とエネルギーが線形に変化する特殊な電子構造をもつ物質が見いだされ、従来とは異なる物性を示すことから大きな注目を集めています。 その代表例がグラフェンです。グラフェンでは、この線形分散(ディラック分散)により、電子はあたかも質量を持たないかのように振る舞い、キャリア質量が極めて小さくなります。その結果、高速動作かつ低消費電力を実現できる次世代エレクトロニクス材料として期待されています。 一方、陶器やレンガから想像されるように、酸化物は一般に電気を流さないというイメージを持たれがちですが、実際には、銅などの高伝導金属に匹敵するほど高い電気伝導度を示す酸化物も存在します。最近、私たちは、このような高い伝導性の背景にディラック電子の存在が関与している可能性を見いだしました。 本研究では、酸化物におけるディラック電子の起源を解明するとともに、その特性を最大限に引き出すことを目指しています。これにより、酸化物が本来持つ高い熱的・化学的安定性と、優れた電子機能を両立させた、新しいエレクトロニクス材料の創出につなげていきたいと考えています。

 
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図:本研究室で育成した高純度な酸化物トポロジカル物質の単結晶を用い、トポロジカル電子状態の起源や特性を明らかにしています。